保育の現場で耳にする「保育の5領域」と「児童発達支援の5領域」。
子どもの成長と発達を支えるために、保育現場では「保育の5領域」、児童発達支援の現場では「児童発達支援の5領域」が活用されています。これらは、子どもの発達を理解し、適切に支援していくための視点を体系的に整理したものであり、大切な視点です。
たしかに、両者の目的や対象、内容には違いがありますが、どちらとも「子どもの最善の利益」のために設けられたものです。現代の保育現場や療育の現場では、発達に特性のある子どもが増えており、保育と発達支援の視点を統合的に理解することが求められています。保育園やこども園の子どもが療育にも通っている場合、保育士と児童発達支援の指導員が「共通の理解を持って支援する」ことが肝要です。そのためには、どちらの領域も対立や別物として扱うのではなく、子どもの特性に応じて補完し合うものとして捉える視点が大切です。
本記事では、これらの領域の違いを詳細に比較し、それぞれの特徴と役割について解説します。
これらは、子どもたちの成長という複雑な道のりを、5つの大切な視点から照らし出す灯台のようなものです。保育士や児童発達支援員は、この灯台の光を頼りに、子どもたちの発達段階や個性に合わせて、遊びや学び、様々な体験をデザインします。それは、子どもたちが未来に向かって力強く歩んでいくための、土台を築くための大切な道しるべなのです。
視点 | 保育の5領域 (保育所保育指針) | 児童発達支援の5領域 (児童発達支援ガイドライン) |
---|---|---|
対象 | 一般的な発達をする乳幼児 | 発達に特性のある乳幼児※ |
目的 | 子どもの「育ち」を支える (子どもの健やかな成長を 総合的に支援する) | 子どもの「できる」を増やす (発達の遅れや偏りによる困難さ を軽減し、社会生活への適応力 を高める) |
支援方法 | 遊びを中心とした活動 集団生活を通した学び 保育者による環境構成 や働きかけ | 療育アプローチ 個別支援計画に基づいた専門的 な支援(心理指導、理学療法、 作業療法、言語聴覚療法など) |
※集団療育及び個別療育を行う必要があると認められる未就学の障がいを抱える児童
通所給付決定を行うに際し、医学的診断名又は障害者手帳を有することは必須要件ではなく、療育を受けなければ福祉を損なうおそれのある児童を含む
保育の5領域とは?
保育の5領域は、「保育所保育指針」に示されている子どもの発達支援の基本的な枠組みです。子どもが豊かに育つための視点を以下の5つに分類しています。
領域名 | 内容 | ねらい |
---|---|---|
健康 | 基本的生活習慣(食事・睡眠・排泄・清潔・衣服)や身体活動を通じて、 心身の健康を育む | 健康な心と体を育み、生活リズムを整えることで、意欲的に生活できるようにする |
人間関係 | 他者との関わりを通じて信頼感や共感を育み、社会性の基礎を培う | 他者と親しみをもちながら関係性を築き、協調性や自立心を育てる |
環境 | 自然や社会、身の回りの物との関わりを通じて、好奇心や探究心を育む | 身近な環境に主体的に関わる中で、考える力や発見する喜びを得られるようにする |
言葉 | 日常生活や遊びを通じて、言葉による表現力や理解力、意思疎通の力を伸ばす | 言葉に親しみ、自分の気持ちや考えを伝えたり、他者の言葉を理解したりできるようにする |
表現 | 音楽、造形、身体表現など多様な手段で自分の思いや考えを表す | 感性や創造性を発揮し、自己表現の楽しさを味わうとともに、他者の表現にも関心を持つ |
これらの領域は、乳幼児の発達段階に応じた関わりを意識しながら、「育ちを支える保育」を実現するための指針となっています。
児童発達支援の5領域とは?
児童発達支援の5領域は、発達に特性のある子どもたちへの支援に活用される視点です。児童発達支援施設など、療育の現場で活用されています。発達に特性のある子どもに対して、発達の段階や困りごとに応じた支援を行い、「できるように支援する」という目的になります。
厚生労働省の「児童発達支援ガイドライン」などに基づき、以下の5つの領域で子どもの発達支援を行います。この5領域は、特に自閉スペクトラム症(ASD)やADHD、知的障害など、発達に課題を抱える子どもたちの個別支援計画(アセスメント・モニタリング)に活用され、支援の視点として非常に実践的です。
領域名 | 内容 | ねらい |
---|---|---|
健康・生活 | 着脱、排泄、食事、清潔、休息などの日常生活の習慣化と情緒の安定を図る | 基本的生活動作の自立を促し、安心できる生活リズムと自信を育てる |
運動・感覚 | 粗大運動・微細運動の発達を促し、バランスや感覚統合(視覚・聴覚・触覚など)を支援する | 身体をコントロールする力を育て、感覚の過敏・鈍麻に配慮しながら日常生活の自立を高める |
認知・行動 | 注意の持続、記憶力、順序理解、課題の遂行など認知機能や行動調整の力を育てる | 認知的な働きを育て、思考や行動を段階的に自律させる |
言語・コミュニケーション | 発語、言語理解、非言語的表現(ジェスチャー、絵カード等)を含む意思表示の支援 | 意思を的確に伝えたり、他者の意図を理解したりする力を育てることで、円滑な人間関係を築く |
人間関係・社会性 | 他者とのやり取り、感情調整、集団でのルール理解や参加を支援する | 社会性を高め、集団生活や社会の中で適応できるスキルを育てる |
保育の5領域と児童発達支援の5領域の違い
領域 | 保育の5領域 | 内容・ねらい (保育所保育指針) | 児童発達 支援の5領域 | 内容・ねらい (児童発達支援) |
---|---|---|---|---|
1 | 健康 | 心身の健康 基本的生活習慣 (食事・排泄・睡眠・清潔・衣服) 運動や休息のバランスを知る | 健康・生活 | 基本的生活習慣の獲得支援 (着脱、排泄、食事等) 安定した情緒・生活リズムの確立 自己管理への導入 (衛生・睡眠・安全) |
2 | 人間関係 | 他者との関わりを楽しむ 信頼関係の構築(愛着) 社会性の基礎 | 人間関係・社会性 | 対人スキル(気持ちの共有) 集団での活動に参加する力 社会的ルールの理解と適応 |
3 | 環境 | 自然・社会・物との関わり 探究心・好奇心を育む 安全で豊かな環境の中で自発的活動を促す | 認知・行動 | 認知的発達 (見て・聞いて・考える力) 因果関係の理解、物事の順序、 注意の持続 問題解決力や状況理解の支援 |
4 | 言葉 | 言葉による表現力 聞く・話す力の発達 読み聞かせや会話の中での言葉の獲得 | 言語・コミュニケーション | 発語・理解の促進 ジェスチャーや代替手(AAC)の活用 意思表出や他者とのやりとりの支援 |
5 | 表現 | 感性・創造性の育成 音楽・造形・身体表現など 多様な表現活動を楽しむ 自己表現・想像力の育成 | 運動・感覚 | 粗大運動・微細運動の発達支援(歩く、書く、握る) 感覚統合(視覚・聴覚・触覚など)への支援 身体の使い方や自己認識 |