認知症の方は年々増加しており、何らかの介護・支援を必要とする65歳以上の認知症の人は約500万人、65歳以上の人の約5人に1人も認知症になっています。今後、さらに認知症の方は増えていき、2030(令和12)年には約523万人、2060(令和42)年には約645万人になると推計されています。
女性のほうが男性よりも認知症になりやすく、85~89歳において男性約25%に対して女性約40%、90歳以上においては、男性約40%に対して女性約55%となっていますので、特に高齢者の一人暮らしの女性の方は認知症対策は欠かすことができないものとなっています。
認知症が進行すると、日常生活の様々な活動が困難になりますが、認知症の方が抱える大きな問題・悩みとして、財産管理が困難になるという点があります。
例えば、銀行口座の管理や不動産の売却、税金の支払いなど、日常的に行わなければならない手続きができなくなることです。また、認知症が進行すると、自分の財産や契約に関する判断が難しくなるため、不正な取り扱いや詐欺の被害に遭うリスクも高まり、本人や家族の生活に深刻な影響を与えることになります。
◯認知症や病気で判断能力が低下したときに、介護費用・施設費用捻出などのために、事前に財産(預金・不動産の所有権)を家族に託しておきたい。
◯認知症の配偶者が、自分の死後に成年後見制度(後見人)を利用しなくても済むように、他の家族や専門家に託しておきたい。
このような状況に備えるための方法として、近年注目を集めているのが「家族信託」という制度です。家族信託は、認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ財産管理を家族に委ねる仕組みであり、財産管理や相続を円滑に行うための有力な手段として広まりつつあります。
家族信託の活用は、遺言書の作成、後見制度の利用、死後事務委任契約の活用などとともに、終活を考える上で、1つの選択肢となります。老後安心して生活を送るためには、事前に適切な対策を講じておくことが重要です。
本記事では、「家族信託」の仕組みやそのメリット、そして認知症対策としての有効性について詳しく説明し、認知症患者やその家族が直面する課題にどう対応できるかを考察します。
家族信託の仕組みとは?
家族信託とは、信託契約を利用した財産管理の方法であり、特に認知症対策として有効です。
信託とは、財産を管理するために第三者に委託する仕組みであり、家族信託はその名の通り、家族間で行われる信託契約です。
具体的には、財産を持つ本人(委託者&受益者)が、自分の財産を信託し、その管理を自分の子などの家族(受託者)に委ねて、財産の管理・運用・処分による収益等を受け取る形で行います。
家族信託のよくある例としては、高齢者である親を委託者兼受益者、子を受託者とし、親の老後の生活資金を確保するために、親の財産の管理・運用を子が引き受ける形が挙げられます。
家族信託は、受託者が財産を管理する際に、その管理状況を適切に報告する義務があります。このため、受託者が財産をどのように管理しているかが透明に示され、委託者やその家族が安心して見守ることができます。
◯認知症になった場合、本人でも預金の引き出しや各種契約ができなくなりますが、家族信託をしておくことで子(受託者)が行うことができます。さらに、不動産を設定していた場合は、子(受託者)の判断により、いつでも自宅を売却できるようになります。子は、親の老人ホームや介護施設などの資金面での不安はなくなり、安心して施設で過ごすことができます。
①財産の管理と運用の委託
家族信託では、委託者が自分の財産の管理を受託者に委託します。受託者は、委託者の指示に従って財産を管理し、運用する義務を負います。委託者が認知症になって判断能力を失った場合でも、受託者が財産管理を続けることができるため、本人の生活を支えるための重要な手段となります。
②財産の取り扱いの柔軟性
家族信託は、信託契約を結ぶ際に、財産の取り扱いに関する詳細な指示を決めることができます。
例えば、「もしも自分が認知症になった場合には、特定の資産を売却して介護費用に充てる」といった具体的な指示を出すことができ、受託者がその指示に従って柔軟に財産を管理することができます。
③相続対策としての利用
家族信託は、認知症対策としてだけでなく、相続対策としても有効です。信託契約によって、財産の移転や管理方法をあらかじめ決めておくことで、相続発生時に相続人間での争いを避けることができます。
認知症対策としての家族信託のメリット
家族信託は、認知症になった場合に備えるための有効な手段であり、以下のようなメリットがあります。
①財産管理能力が低下しても安心
認知症が進行し、本人の判断能力が低下した場合でも、あらかじめ家族に財産管理を委託しておけば、財産の管理や運用に困ることはありません。受託者が代理で必要な手続きを行い、本人の生活を支えるために必要な財産を適切に運用します。
②不正や詐欺から守る
認知症患者は、自分の財産や契約に関する判断が難しくなるため、詐欺や不正の被害に遭うリスクが高くなります。家族信託を利用することで、信頼できる家族が財産管理を行い、不正な取り扱いや詐欺から本人を守ることができます。
③相続におけるトラブル回避
家族信託を利用することで、相続に関するトラブルを未然に防ぐことができます。財産の管理方法や分配方法をあらかじめ信託契約で決めておけば、相続発生時に相続人間での争いが起こりにくくなり、円滑な相続が実現します。
④財産の運用・活用の柔軟性
家族信託は、財産の運用において柔軟な対応が可能です。認知症の進行具合に応じて、受託者は財産を売却したり、運用したりすることができます。これにより、本人の生活を支えるための資金を確保することができます。
家族信託を利用する際の注意点
家族信託には多くのメリットがありますが、利用に際していくつかの注意点も存在します。
①契約の内容の明確化
家族信託を行う際には、信託契約の内容を明確にし、受託者がどのように財産を管理し運用するかを詳細に決めることが重要です。これにより、受託者が迷うことなく財産管理を行えるようになります。
②受託者の選定
信託の受託者は、信頼できる家族や専門家を選ぶ必要があります。受託者は委託者の代わりに財産管理を行うため、その責任は非常に重いものです。適切な受託者を選定し、契約内容についてしっかりと話し合うことが重要です。
③追加費用の発生
家族信託を設定する際には、信託契約書の作成費用や、設定登記のために司法書士への報酬が発生します。信託の運用にも一定の手間やコストがかかるため、事前にこれらの費用を考慮する必要があります。
④直接の節税効果は得られない
家族信託を行うことで直接の節税効果が得られるわけではありません。相続税の節税効果を考える場合は、他の制度を利用したほうがよいでしょう。詳しくは税理士に相談しましょう。
まとめ
高齢化社会が進展し、認知症患者の増加が懸念される中で、家族信託は非常に有力な認知症対策となります。認知症による財産管理能力の低下に備え、あらかじめ家族信託を利用して財産管理を委託することは、本人や家族の安心を保障する手段となります。
家族信託は、財産の管理を信頼できる家族に委ね、柔軟に運用できる仕組みを提供します。これにより、認知症患者は生活を支えられ、相続に関するトラブルも避けることができます。家族信託は、認知症対策だけでなく、将来に向けた財産の管理や相続対策としても有効であり、これからますます注目されるべき制度です。