令和6年度より5領域に沿った施設のプログラム・個別支援計画をしていくことが必要となりました。個別支援計画などを作成していく中で、子どもの発達段階の大局観を把握するために参考となる心理学での有名な理論や研究について、以下に記載いたしましたのでご覧ください。
一般的には未就学児を中心にした説明が多いですが、この記事では放課後デイの対象となる児童期(小学生)にフォーカスして記載しています。
ピアジェ(発達段階説)
ピアジェの発達段階説は、子どもの認知機能の発達がどのように進んでいくのかを理解する上で重要な理論です。この理論は、教育や保育の現場においても広く活用されており、子どもの発達に合わせた指導や支援を行うための指針となっています。
・子どもは4段階で認知機能が発達
・認知機能(認識の枠組)の発達は3つのステップ(同化・調節・均衡化)からなる
・子どもによって個人差はあるものの、子どもの認知機能の発達の順序は普遍的
・それぞれの発達段階では、質的にまったく異なる思考となる
発達4段階 | 年齢 | キーワード | 概要 |
①感覚運動期 | 0〜2歳 | 循環反応 対象の永続性 | ・五感や運動感覚を通して理解 ・中心化(自分が唯一絶対のもの) ・不可逆性(元に戻せない概念なし) |
②前操作期 | 2〜7歳 | 象徴的思考 自己中心性 直感的思考 | ・イメージや物事の概念化は進む ・自分と同じように無機物も生きていると捉える ・他者の視点も部分的に理解 ・不可逆性は部分的に理解 |
③具体的操作期 | 7〜11歳 | 保存概念 脱中心化 | ・具体的にイメージできるものは論理的に思考できる ・保存の概念の理解 ・他者の視点から客観的に物事を考えられる |
④形式的操作期 | 11〜15歳 | 論理的思考 抽象概念 仮説的推論 科学的思考 | ・抽象的な状況でも論理的に思考できる ・抽象的な概念の発達 |
7歳から11歳(具体的操作期)の主な特徴
①保存の理解
量、長さ、重さなどを理解し、見た目が変わっても量が保存されることを理解できるようになる。
②分類能力の発達
物を大きさ、色、形などの共通点に基づいて分類できるようになる。
③論理的思考の獲得
原因と結果の関係を理解し、簡単な推理や判断ができるようになる。
④脱自我中心性
自分の視点だけでなく、他者の視点も理解できるようになる。
⑤時間と空間の理解:
過去・現在・未来などの時間的な概念を理解し、地図や図を使って空間的な関係を理解できるようになる。
例1. 水の量保存
- 状況
違う形のコップを2つ用意。一方のコップの水を、別の形の間口の小さいコップに移し替えたところ、見た目の高さは高くなりました。どちらのコップの水が多いですか?と質問。 - 前操作期の子ども:
色々な答えが出てくるが、「入れ替えた間口の小さいコップの水」が多いと答える子供が多い。 - 具体的操作期の子ども
具体的操作期の子どもは、コップの形が変わっても水の量は変わらないことを理解しているので、「どちらのコップも同じ量の水が入っている」と答える。
例2.簡単な料理
- 状況
子どもと一緒に、簡単な料理を作る。 - 前操作期の子ども
前操作期の子どもは、大人を見ながら真似をして料理を作る。 - 具体的操作期の子ども
具体的操作期の子どもは、レシピを見ながら、手順を追って料理を作ることができる。自分の行動がどのような結果をもたらすかを理解し、計画的に行動できる。
エリクソン(心理社会発達理論)
人の一生を8つの段階に分け、それぞれの段階で起こる心理社会的危機と、その危機を乗り越えることで獲得できる心理社会的資質を明らかにした理論。
年齢 | プラス | マイナス | ||
1 | 乳児期 | 0〜1歳半 | 基本的信頼感 | 不信 |
2 | 幼児前期 | 1歳半〜3歳 | 自律性 | 恥・疑惑 |
3 | 幼児後期 | 4〜5歳 | 積極性 | 罪悪感 |
4 | 児童期 | 5〜13歳 | 勤勉性 | 劣等感 |
5 | 青年期 | 13〜18歳 | 自我同一性 | 拡散・欠如 |
6 | 成人前期 | 18〜40歳 | 親密性 | 孤独 |
7 | 成人中期 | 40〜65歳 | 世代性 | 停滞 |
8 | 老年期 | 65歳〜 | 統合性 | 絶望 |
エリクソンの心理社会的発達理論において、児童期は 小学生 頃を指します。この時期の子どもは、「勤勉性 vs 劣等感」 という心理社会的危機に直面します。児童期においては、自らの課題に挑戦し、成し遂げると有能感を抱き、一方で課題を上手く成し遂げられないと、他者と比べて上手くできない劣等感に悩むことになります。
1. 勤勉性 vs 劣等感
【課題】 知識や技能を習得し、社会の一員としての役割を果たせる「勤勉性」を獲得すること。
獲得できれば: 自信、有能感、勤勉性
獲得できなければ: 劣等感、無力感、非社交性
2. 具体なシーン
- 学校生活
勉強、読書、スポーツなど、様々な活動を通して知識や技能を習得し、友達と協力したり競争したりすることで、社会の一員としての役割を学びます。 - 宿題
計画的に課題を仕上げ、提出して、○を貰うことを繰り返すことで、自分には「能力」があると理解して、自信につながります。 - 遊び
スポーツ・ボードゲーム・遊びなどを通して、ルールを守ること、協調すること、競争することなどを学びます。 - 家族との関わり
家事の手伝い、家族の世話をすることで、責任感や貢献感を学びます。
ヴィゴツキー(最近接領域)
ヴィゴツキーは、「他者の支援があればできる」ことを発達の最近接領域としました。最近接領域は、他者の支援があれば解決できる水準(潜在的発達水準)と、現時点で自力で課題を解決できる水準(現時点の発達水準)のへだたり(差)を指します。
教育的働きかけをすることにより、子どもの最近接領域が現時点の発達水準へと変わると同時に、新たに発達可能水準が広がることを意味します。
放課後デイ現場においては、子どもの発達を「自分ひとりでできる」・「他者の支援が(あと少し)あればできる」・「支援があっても(まだ)できない」の三領域に分けて考えると、わかりやすいかと思います。
1人1人の子どもの発達の最近接領域を見定めた上で、その子どもに適した課題を課すとともに、必要な支援をしていくことが求められることになります。「自分ひとりでできる」課題をどれだけたくさん取り組んでも、発達可能水準を広げることはできませんが、「あと少しの他者の支援があればできる」課題に取り組むことで、発達可能水準を広げることができるということです。放課後デイの児発管・支援員は、「適切な難易度の目標を設定し、子どもがそれを達成できるように環境を整えること」とも言えます。
放課後デイで具体的にできること
- 【適切な】支援を提供する
【適切な】支援のためには、少なくとも上記の理論をもとに、考えることです。一人一人の子どもの発達段階に応じた最近接領域を見定めた上で、その子どもに適した課題を課すとともに、必要な支援をしていくことが求められます。「自分ひとりでできる」課題に何度も取り組んでも、発達可能水準を広げることはできません。子どもが「あと少しの他者の支援があればできる」課題に取り組むことで、発達可能水準を広げることができます。適切な支援とは、「適切な難易度の目標を設定し、子どもがそれを達成できるように環境を整えること」とも言えるかと思います。 - 子どもの努力を認める・励ます
子どもが何かを成し遂げようとするときは、適度に努力を認め、励ます必要があります。例えば、勉強において、数の概念が理解できなかったり、計画的な勉強のやり方がわからなかったりすることで、他の子どもと自分を比べて、自分が劣っていると感じる場面が出てきます。自分は他の子どもより劣っているから諦めるのではなく、負けないように頑張ろうと努力することで、劣等感がなくなることや、自分にもできるんだという有能感が得られます。子どもが劣等感を抱かず、逆に傲慢にもならないように、適度に努力を認め、励ます必要があります。失敗を恐れて挑戦しない子には、失敗しても大丈夫だよと励まし、チャレンジする勇気を育ててあげましょう。 - 友達との関わりを促進する
友達と遊んだり、一緒に活動したりすることで、協調性やコミュニケーション能力を養うことができます。規則やルールを守る動機や行動を与えることで道徳観が形成されます。 - 読書や学習の機会・様々な経験を提供する
読書や学習を通して、知識や教養を身につけることができます。スポーツ・芸術など、様々なことに挑戦させて子どもが興味や才能を発見するように導いてあげましょう。
以上のことを踏まえると、5領域に沿った個別支援計画、施設のプログラムに自然と繋がっていくことになるのではないでしょうか。全ての子どもを発達段階で説明できるわけではなく、障がい等を踏まえて、個々への関わりを考えていくことが必要なことではありますが、心理学の研究を参考にして療育に取り組むことは、より適切な支援につながるのは言うまでもないと思います。