成年後見制度は、判断能力が難しい方・ない方の身上監護(生活・医療・介護等の支援)や財産等を保護し、その権利を擁護するための制度です。
- 身上監護・・・本人の生活や健康・療養に関する支援してもらう
- 財産管理・・・本人の財産(預貯金、不動産など)を管理してもらう
後見制度は大きく分けて、法定後見と任意後見の2種類があります。
この記事では、それぞれの制度の特徴や違いを詳しく解説していきます。
【成年後見制度の目的】
成年後見制度の目的は、判断能力が十分でなくなった方が、自分自身で判断することや行動することが困難になった場合に、その方の意思を尊重しつつ、適切な支援を行うことです。
これにより、本人にとってより良い生活を送ることができるようにすることを目指しています。
具体的な支援
①身上監護
身上監護とは、医療、介護、施設入所に関する契約など、本人の生活に関する法律行為を行うことです。任意後見人の仕事は、財産管理など事務的に行うものですので、食事や入浴の支援、介護サービスをすることは支援の範囲外です。後見人自らが提供するのではなく、介護サービス事業者等との事務手続きを代わりにすることで支援することが一般的です。
- 介護サービスの契約手続き、内容変更等
- 要介護認定の申請
- ケアマネージャー、ケースワーカー等との対応
- 介護費用・公共料金等の支払い
- 入院手続き
- 施設入所手続き
②財産管理
財産管理とは、預貯金、不動産、株式などの有価証券等の財産を管理することです。
- 預貯金の管理
- 不動産の管理、処分(売却)
- 株式・投資信託等の有価証券の管理
- 各種保険の管理
- 各種年金の管理
- 各種税金の管理(支払い)
- 公共料金・新聞購読料・NHK等への支払い
- 本人が行うべき法律行為 等
任意後見制度
1 任意後見制度とは
任意後見制度は、本人がまだ判断能力があるうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて、任意後見契約を締結する制度です。この契約に基づき、任意後見人は、本人のために財産管理や日常生活の支援を行います。
2 任意後見制度の特徴
【大前提】判断能力があるうちに任意後見契約を締結します。
- 本人の意思決定: 任意後見人やその権限を、本人が自由に決めることができます。
- 契約内容の自由度: 任意後見契約の内容は、本人の意思に基づいて自由に定めることができます。
- 家庭裁判所の関与: 任意後見契約の申立ては、家庭裁判所に対して行われますが、契約内容を詳細に審査されることはありません。
3 任意後見契約書の作成
任意後見は、法律において公正証書で作成することが義務づけされています。
代理権の範囲等の契約内容をまとめた原案を公証役場に提出し、原案をもとに公証人が契約書を作成してくれ、公証人の面前で契約を結ぶことになります。公正証書作成の費用は約1万5千円です。
【原案作成にあたって決めるべきこと】
・生活、介護、療養の方針(自分の考え)
・預貯金の管理・処分の方針
・不動産などの活用、処分の方針
・任意後見人の報酬額(専門家への依頼は月3万〜8万)
・依頼する代理権の範囲(具体的に)
【必要書類】
・任意後見契約の原案(公証役場へ提出)
・本人必要書類(戸籍謄本、住民票、実印、印鑑登録証明書)
・任意後見の受任者(実印、印鑑登録証明書、住民票)
4 任意後見開始の手続き
本人の判断能力が低下した時に、任意後見受任者や親族等が、家庭裁判所に対し「任意後見監督人」を選任してほしい旨の申立てをします。家庭裁判所が、任意後見人を監督すべき「任意後見監督人」を選任した時から任意後見契約の効力が発生し、任意後見受任者は「任意後見人」として、契約に定められた仕事を開始することになります。
任意後見監督人は、万が一、任意後見人による代理権の濫用・使い込み等を防止するため、任意後見人から定期的にその事務処理の状況の報告を受け、これに基づいて任意後見人の事務処理状況を家庭裁判所に報告し、その指示を受けて任意後見人を監督します。
法定後見制度
1 法定後見制度とは
法定後見制度は、本人の判断能力が既に低下している場合に、家庭裁判所が後見人を選任し、その人が本人の代わりに法律行為を行ったり、財産管理を行う制度です。
2 法定後見制度の特徴
【大前提】本人が既に判断能力が低下していることが前提となります。
- 家庭裁判所の関与
家庭裁判所が後見人を選任し、その権限を定めます。 - 後見人の権限
後見人は、本人の代わりに契約を結んだり、財産を処分したりすることができます。 - 本人の意思尊重
後見人は、本人の意思を尊重しながら、その利益のために活動することが求められます。
3 法定後見の種類
法定後見には、後見、保佐、補助の3種類があります。それぞれの種類によって、後見人の権限が異なります。
①後見
判断能力が最も低下している場合に選任され、後見人は本人の代わりにほとんどの法律行為を行うことができます。
②保佐
後見よりも判断能力が高い場合に選任され、重要な法律行為については後見人の同意が必要となります。
③補助
判断能力が比較的高い場合に選任され、後見人の補助のもと、本人が自分で法律行為を行うことができます。
法定後見と任意後見の違い
項目 | 任意後見 | 法定後見 |
---|---|---|
後見開始時期 | 判断能力があるうちに | 判断能力が低下してから |
後見人の選任 | 本人が自由に選ぶ | 家庭裁判所が選任 |
後見監督人 | 選任が必要 | 必要かどうかは裁判所判断 |
契約内容 | 本人の意思に基づいて 範囲を自由に定める | 法律で定められた範囲内 |
開始までの流れ | ①判断能力がある間に 公正証書で契約 ②判断能力が低下 【家庭裁判所へ】 ③後見監督人の申立 ④後見監督人の選任 | ①判断能力低下 【家庭裁判所へ】 ②成年後見人の申立 ③成年後見人の選任 |
成年後見制度は専門家へ相談
成年後見制度は、判断能力が低下した方の生活や財産を保護するための重要な制度です。法定後見と任意後見の2種類があり、それぞれの特徴やメリット・デメリットが異なります。将来、判断能力が低下する可能性がある方は、早めに成年後見制度について検討しておくことが大切です。
成年後見制度は専門的な知識が必要となるため、弁護士や行政書士などの専門家に相談することが重要です。
(ご参考)認知症段階により任意後見の契約可能性あり
本人の判断能力がなければ、任意後見契約は締結できないですが、認知症であるからといって直ちに判断能力が欠けていると評価されるわけではありません。任意後見契約は公正証書で作成しなけれなならないので、公証人において、委任者本人や関係者からの説明、医師の診断等を参考に個別に判断能力の有無を判断し、公正証書が作成できるかどうかを決めることになります。
厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」では、①本人の意思決定能力は行為内容により相対的に判断される、②意思決定能力は、認知症の状態だけではなく、社会心理的・環境的・医学身体的・精神的・神経学的状態によって変化するので、残存能力への配慮が必要であるとされています。
(ご参考)任意後見の代理権の範囲例
代理権目録(任意後見契約)
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項
2 金融機関、郵便局、証券会社とのすべての取引(預貯金等の管理、振込依頼・払戻、口座の変更、解約、払戻金の受領等)に関する事項
3 保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約(類似の共済契約等を含む。)に関する事項
4 定期的な収入(家賃、地代、年金その他の社会保険給付等)の受領、定期的な支出(家賃、地代、公共料金等)を要する費用の支払並びにこれらに関する諸手続等一切の事項
5 生活費の送金、生活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取引(契約の変更、解除を含む。)に関する事項
6 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項
7 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は審査請求並びに福祉関係の措置(施設入所措置を含む。)の申請及び決定に対する審査請求に関する事項
8 シルバー資金融資制度、長期生活支援資金制度等の福祉関係融資制度の利用に関する事項
9 登記済権利証・登記識別情報、印鑑、印鑑登録カード、マイナンバーカード、住民基本台帳カード、預貯金通帳、各種キャッシュカード、有価証券・その預り証、年金関係書類、土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使用に関する事項
10 居住用不動産の購入、賃貸借契約並びに住居の新築・増改築に関する請負契約に関する事項
11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明書の請求に関する事項
12 遺産分割の協議、遺留分侵害額請求、相続放棄、限定承認に関する事項
13 配偶者、子の法定後見開始の審判の申立に関する事項
14 新たな任意後見契約の締結に関する事項
15 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立て、紛争の処理(弁護士に対する民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟行為の委任、公正証書作成の嘱託を含む。)に関する事項
16 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項
17 以上の各事項に関連する一切の事項
以上