高齢者等終身サポートのニーズの更なる増加が見込まれることから、適正な事業運営の確保や、利用者が安心して利用できる環境を整備していくことが必要のため、関係省庁※横断で、事業者が遵守すべき法律上の規定や留意すべき事項等を整理し、『高齢者等終身サポート事業者ガイドライン』が策定されました。
高齢者等終身サポート事業者は、契約に際して民法や消費者契約法に基づいた民事ルールを遵守する必要があり、ガイドラインにて具体例が提示されています。
この記事では、高齢者等終身サポート事業者ガイドラインの第2章に提示されている「契約締結にあたっての留意事項」をわかりやすく記載しています。
公正な契約手順の確保
- 契約内容の説明について
- 高齢者等終身サポート事業の対象は主に高齢者であり、加齢による判断能力の低下が考慮されるため、契約前に利用者の意思能力を確認することが求められます(民法第3条の2)。
- 消費者契約法では、契約の勧誘時に消費者に必要な情報を提供し、理解を深めることが義務付けられています。特に、高齢者の年齢や心身の状態を考慮し、契約内容や権利義務について丁寧に説明することが重要です(消費者契約法第3条第1項第2号)。
- 高齢者等終身サポート事業者は、契約時に利用者の年齢、心身の状態、知識・経験を考慮して、提供するサービス内容や判断能力が低下した場合の対応方針について丁寧に説明する必要があります。
- 説明は面談を通じて行い、理解を促進するために「重要事項説明書」を作成・交付することが推奨される。これにより、利用者が契約内容をしっかり理解し、自分の意思に基づいた決定ができるよう支援することが求められます。
- 重要事項説明に含めるべき具体的な事項
1)提供するサービス内容と費用
サービスごとの費用を具体的に区分し、入会金や預託金を明確に示します。
サービス利用の都度支払う費用がある場合、その内容も明示します。
2)費用の支払方法
支払いのタイミング、金額、方法を具体的に説明。特に預託金から費用を差し引く場合、差し引かれた費用の詳細を明確にし、追加預託が必要な場合の条件や時期についても事前に説明します。
3)サービスの履行状況確認方法
契約者に対して提供するサービスがどのように履行されるかを確認する方法を説明します。
4)入院・入所等時の対応方針と医療に係る意思決定の支援
入院や入所が必要になった場合、本人の希望を事前に書面に残し、定期的に意思を確認することが望ましいです。
5)判断能力低下時の対応方針
利用者の判断能力が低下した場合の対応方法を明示します。
6)契約の履行に関する賠償ルール
債務不履行や不法行為に対する賠償ルールを説明。免責条項についても、消費者契約法に基づき適正に設定する必要がある。
7)契約解除・解約時の取り扱い
解約条件や解約料について、消費者契約法を遵守し、解約料の算定根拠を合理的に説明する。解約に伴う返金方法や条件を詳細に説明。
8)預託金の管理方法
預託金の取り扱いや管理方法について説明。
9)死後事務サービスの内容
提供される死後事務サービスの具体的な内容を説明。
10)寄附や遺贈に関する取扱方針
寄附や遺贈に関する取り決めや方針について説明。
11)個人情報の取り扱い方針と管理体制
個人情報の保護方針や管理体制を説明。
12)相談窓口の連絡先
利用者が相談できる窓口の連絡先を明示します。
契約書の交付の重要性
- 高齢者等終身サポート事業に関連する消費生活相談では、「契約書が交付されていない」といった問題が報告されています。
- 高齢者等終身サポート事業の性質を踏まえると、契約内容を明確にするために、契約書を作成し、利用者に交付することが非常に重要です。
契約の効力を保証するための第三者の立会い
- 高齢者等終身サポート事業は、特に判断能力の低下が懸念される高齢者を対象としているため、契約締結時に第三者(医療・介護関係者、利用者の親族等)を立会人として求めることが推奨されます。これにより、契約の効力について争いが生じるリスクを未然に防ぐことができます。
取り消される可能性のある勧誘方法について
- 消費者契約法では、不当な勧誘によって消費者が契約を結んだ場合、その契約を取り消す権利が認められています(消費者契約法第4条)。高齢者等終身サポート事業では、特に高齢者が契約の相手方となることが多いため、加齢による判断能力の低下や不安を考慮し、誤認を招くような勧誘を避けることが必要です。
- 不当勧誘には、誤った情報を伝える「不実告知」、断定的な判断を提供する「断定的判断の提供」、消費者に不利益な情報を告げない「不利益事実の不告知」、不安を煽るような「困惑させる勧誘」などが含まれます(消費者契約法第4条)。
- 高齢者等終身サポート事業者は、契約を締結しないと現在の生活が維持できないというような不安を煽る説明を避け、誠実に説明を行うことが求められます。
- すべての契約は、利用者本人の意思に基づいて締結されるべきであり、契約内容について十分に理解してもらうことが重要です。
提供するサービス内容ごとの留意事項
(1) 身元保証等サービス
身元保証等のサービスには、医療機関への入退院手続きや介護施設への入退所手続きの代行、連帯保証(身元保証)、緊急連絡先の指定、緊急時の対応、身柄の引き取りなどが含まれます。これらの具体的な支援内容や費用については、重要事項説明書を使って利用者に丁寧に説明し、その内容を契約書に明記した上で契約を締結することが重要です。
ア 入院・退院、入所・退所への支援
- 利用者が希望する内容(手続きの代行、説明の場への同席、連帯保証等)について確認し、その対応内容や費用を丁寧に説明することが必要です。
- 連帯保証(身元保証)の契約を結ぶ際には、事業者が未払費用を負担した場合の求償や、前払預託金からの充当についてのルールを明確にすることが重要です。
- また、利用者が入退院・入退所時の支援を希望する場合、次の点についても利用者に説明し、確認することが望ましいです
- 既に医療や介護を利用している場合、かかりつけ医や担当ケアマネジャーとの連絡・情報共有について、利用者の同意を得ておくこと。
- 利用者の希望する医療や介護について、医療機関が本人の意思を尊重して対応するため、あらかじめ本人が書面で希望を残すことを考慮すること。この場合、利用者の意向を確認し、希望に変化があれば定期的に確認することが重要です。
イ 緊急連絡先の受託
- 緊急時に対応する内容(土日や休日の対応体制など)と、それにかかる費用について、利用者に丁寧に説明することが重要です。
- 緊急連絡先を受託する場合、緊急時に連絡がつながるように、関係機関に対してどのように連絡先を伝えるかを利用者と相談し、決めておくことが望ましいです。例えば、かかりつけ医やケアマネジャーに事前に伝えておく、利用者が身に着ける、または自宅内に分かりやすく掲示するなどの方法があります。
- 入院や入所、緊急時に連絡を希望する先や、連絡の可否についても事前に確認しておくことが重要です。
(2)死後事務サービス
ア サービス提供の合意
・死後事務サービスには、死亡の連絡を受けた際の関係者への通知、葬儀に関する手続きや携帯電話の解約などの代行業務が含まれます。このサービスを提供する際には、具体的な支援内容や費用の支払い方法(預託金の取り扱い、残金の扱い)を契約書および重要事項説明書に明記し、利用者との間で死後事務委任契約を締結することが重要です。
・高齢者等終身サポート事業者は、委任を受けた場合、委任者から請求があれば、委任事務の進捗状況について報告しなければなりません。委任事務が終了した後は、その経過と結果を遅滞なく報告する必要があります(民法第645条)。したがって、利用者が亡くなった後には、相続人に対して死後事務の結果を報告することが求められます。もし推定相続人が複数いる場合、報告を特定の相続人に限定することも考えられます。その場合は、死後事務委任契約でその旨を明記しておくと良いでしょう。
・高齢者等終身サポート事業者は、死後事務委任契約に基づき預託金を受け取り、死後事務に要した費用をこの預託金から精算することができます。預託金を受け取る際、利用者が亡くなった後に預託金の返還の有無や金額について相続人とトラブルになる可能性があるため、事前に適切な預託金額を算定し、利用者やその推定相続人に対して丁寧に説明しておくことが望ましいです。
・委任事務の範囲を決める際には、利用者の希望を丁寧に聞き取り、利用者の死後に法的なトラブルを避けるためにも、できる限り推定相続人にも事前に説明することが望ましいです。ただし、利用者が推定相続人に知らせたくない場合には、その旨を尊重し、事務の執行が難しくなる可能性があることを説明しておくことが大切です。
・死後事務を行う際、高齢者等終身サポート事業者の事務負担が過度になったり、推定相続人の利益に過剰に影響を与えたりしないように、事前に費用の上限や対応期間、葬儀に関する見積もりを設定しておく工夫が考えられます。
具体的な事務における留意点
(ア)葬送に関する事務(葬儀・火葬・埋葬、供養・法要等)
- 利用者の希望に基づき、葬儀方法などを確認し、見積もりを取ったうえで説明することが望ましいです。
- 利用者の希望する葬送方法(例えば散骨や樹木葬など)については、事前に地方自治体への確認や場所の確保が可能かどうかを確認しておくことが大切です。
(イ)行政機関への届出等(年金、医療保険、税金納付等)
- 死亡に伴う手続きについては、利用者の希望を踏まえて、事前に死後事務委任契約を結ぶことが重要です。
- 例えば、年金受給者死亡届については、市区町村への死亡届が提出されていれば、年金支給停止のための届出を省略できます。日本年金機構でマイナンバーが登録されていれば、事前に確認することもできます。
- 医療保険に関する手続きは、利用者が加入している保険によって異なるため、事前に必要な手続きを確認しておくことが望ましいです。
- ただし、利用者の死亡後の所得税に関する税務申告は相続人が行うことになりますので、死後事務委任契約で税務申告を代行することはできません。
(ウ)家屋等の賃貸借契約について
- 利用者が希望する場合には、死亡後の賃貸借契約の解除や残置物の処理を円滑に行うため、あらかじめ高齢者等終身サポート事業者との間で委任契約を結んでおくことが望ましいです。
- 国土交通省および法務省では、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しているので、契約書作成の際に参考にすると良いでしょう。
- また、不動産内に残された動産類の搬出・処分についても、事前に調整しておくことが望ましいです。利用者が希望する形見分けや廃棄処分の内容については、事前に確認し、委任契約に明記することが大切です。
- 推定相続人が明確な場合には、可能であれば、推定相続人に連絡を取り、依頼内容について了解を得ておくとともに、賃貸人にもその旨を伝えておくことが望ましいです。
(エ)電気・ガス・水道等の公共料金の支払・解約について
- 公共料金(電気・ガス・水道等)の支払いや解約手続きについては、受任者である高齢者等終身サポート事業者が対応できない場合もあります。そのため、事前に事業者と確認しておくことが望ましいです。
(オ)携帯電話の解約について
- 携帯電話の解約手続きについても、受任者が対応できない場合があります。事前に携帯電話事業者に解約条件を確認し、解約手続きを実行できることを確認したうえで、死後事務委任契約を締結することが望ましいです。
死後事務委任契約と相続人との関係について
- 死後事務委任契約を結ぶ際、親族や相続人とのトラブルを避けるために、委任事務の範囲を決める前に、推定相続人などに事前に説明をし、利用者の意思に反しない場合には、契約内容を事前に推定相続人などに確認しておくことが望ましいです。
- 死後事務委任契約は、委任者(利用者)が受任者に対して、死亡後に行う特定の事務を委任する契約です。原則として、委任者の死亡が契約終了の原因となりますが(民法第653条第1号)、委任者の死亡後も契約が終了しないことを明確にするために、「委任者が死亡しても本契約は終了せず、委任者の相続人は本契約に基づく権利と義務を承継する」ということを契約書に明記することが望ましいです。
- ただし、利用者と推定相続人との関係に問題がある場合もあるため、そのような場合には、「相続人からの反対等で委任事務の履行が困難となった場合、受任者は相続人に対して意思表示を行い、受任者としての立場を辞任できる」という規定を契約に盛り込むことも検討できます。
(3)日常生活支援サービス
高齢者等終身サポート事業者が提供する日常生活支援サービスには、以下の留意点があります。
- 高齢者等終身サポート事業者が行う支援には、通院の送迎・付添いや、生活に必要な物品の購入、契約に基づいて利用者の意向を尊重した手続きや契約締結の支援などが含まれます。
- サービス提供にあたっては、具体的な支援内容やその費用について、利用者に丁寧に説明することが重要です。その際、重要事項説明書を使用し、契約書に明記したうえで契約を締結することが必要です。
- さらに、日常的に発生する支払い等に関して、高齢者等終身サポート事業者が金銭管理を行う場合には、管理範囲や保管方法、記録の保存方法、利用者の確認方法などについて、重要事項説明書を使用して利用者に丁寧に説明し、契約書に明記したうえで財産管理等委託契約を締結することが重要です。
- 利用者が希望するサービスについては、事業者が直接提供できない場合でも、他の事業者を紹介するなどの対応を検討することができます。また、介護保険サービスや障害福祉サービスを希望する場合には、関係機関と連携して調整することが望ましいです。
- 高齢者等終身サポート事業者が受任した日常生活支援サービスについては、利用者の許可を得て、他の事業者との間で復委任契約を結ぶことができます(民法第644条の2第1項)。これにより、介護保険給付の範囲外で必要なサービスを提供する事業者やヘルパーなどが、保険外サービスとして支援を行うことが可能になります。このような業務分担は、ケアマネジャーの負担軽減にもつながるため、事業者とケアマネジャーが連携して取り組むことが重要です。
死因贈与契約、事業者への寄附及び遺贈について
高齢者等終身サポート事業者と利用者との間で死因贈与契約(利用者が死亡した際に、利用者の財産の一部または全部を事業者に贈与する契約)を締結することや、利用者から寄附を受けることについては、基本的に利用者の意思に基づくものであれば不適切ではありません。しかし、以下の点に留意する必要があります。
(1)死因贈与契約
1. 死因贈与契約の条件にしないこと
死因贈与契約を高齢者等終身サポート事業の契約条件にしたり、パッケージ契約として提供することは避けるべきです。例えば、「利用者が死亡した場合に、高齢者等終身サポート事業者に預託金の残金を贈与する」や、「死後事務委任契約の費用に充てるために相続財産の一部を贈与する」という契約を併せて締結することは、贈与が真に利用者の意思に基づくものであるか疑問が残ります。このような条件は、利用者の意思を尊重する上で不適切とされています。
2. 利益相反のリスク
高齢者等終身サポート事業者が死因贈与契約を締結する場合、事業者にとって将来的に贈与される財産が増える可能性があります。このような状況は、サービス提供に対する利益相反を生む可能性があり、サービスの質が低下するリスクや、利用者の死後に相続人との間で紛争が生じる可能性があります。そのため、事業者は契約内容やサービス提供の状況に十分な注意を払い、利用者との間で死因贈与契約を締結する際には、このリスクに配慮する必要があります。
3. 死因贈与契約の撤回権
高齢者等終身サポート事業者との間で締結した死因贈与契約は、原則として利用者が生前に撤回することができると考えられます。利用者には契約を撤回する権利があることを説明し、その内容を記録しておくことが望ましいです。これは、利用者が死後に相続人との間で紛争を避けるための配慮でもあります。
4. 裁判例の注意点
過去の裁判例(名古屋高裁令和4年3月22日判決)では、身元保証契約と死因贈与契約をセットにした場合、特に高齢者に対して無理にその財産を贈与させることが暴利行為に当たるとして、公序良俗に反し無効とされることもあります。このような場合、事業者が利益を得ることが社会的に不適切であると判断されたため、死因贈与契約を締結する際には十分な慎重さが求められます。
(2) 遺贈について
遺贈とは、遺言によって特定の者に財産を譲与することを指します。遺贈の方式には、主に自筆証書遺言(民法第968条)と公正証書遺言(民法第969条)の2つがあります。遺贈は、遺言者の自由な意思に基づく単独行為であり、その作成方法(自筆証書遺言と公正証書遺言)は遺言者のニーズに応じて使い分けられます。
1. 遺贈を受ける場合の注意点
高齢者等終身サポート事業者が利用者から遺贈を受ける場合、特に高齢者の場合、判断能力の低下が懸念されることが多いため、利益相反の問題が発生しやすいです。このため、利用者の死後に相続人との間で遺言能力の有無やトラブルが生じるリスクがあります。以下の点に留意することが重要です。
- 選択肢の提示
事業者が遺贈先として自社のみを示すのではなく、他の遺贈先も選択肢として提示し、利用者が自発的に遺贈先を選べるように促すことが望ましいです。 - 記録の保存
遺贈の過程やそのやり取りを記録に残しておくことで、事後的なトラブルを未然に防ぐことができます。
2. 遺贈を受ける際の遺言能力の確認
高齢者等終身サポート事業者が遺贈を受ける場合、利用者が遺言能力を有しており、その自由な意思に基づいた遺贈であることを確保することが重要です。この観点から、公正証書遺言による遺言作成が望ましいとされています。
3. 遺贈を契約条件にしないこと
高齢者等終身サポート事業者が利用者に対して遺贈を受けることを契約条件とすることは、死因贈与契約や寄附(贈与契約)と同様に、利用者の意思が真に反映されているのか疑義を生じさせる可能性があるため、避けるべきです。
自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴
①自筆証書遺言
- メリット
- 遺言者が自ら書き、押印することで成立。
- 手軽に作成でき、自由度が高い。
- 作成費用が掛からず、場所を選ばず作成可能。
- デメリット
- 方式不備や記載内容が不明確で効力を巡るトラブルが生じやすい。
- 偽造や変造されるリスクがある。
- 遺言書の紛失や破棄の危険性がある。
- ただし、法務局の保管制度を利用することで、デメリットが軽減される。
②公正証書遺言
- メリット:
- 公証人が関与し、証人が立ち会うことで信頼性が高い。
- 紛失や改変のリスクがなく、遺言能力も確認される。
- 遺言内容が明確で、無効になるリスクが低い。
- デメリット:
- 手続きが面倒で、作成には費用が掛かる。
このように、遺贈に関しては慎重に進める必要があります。特に、高齢者等終身サポート事業者が関与する場合には、利用者の意思がしっかりと反映されていることを確認し、相続人とのトラブルを避けるために適切な手続きを踏むことが求められる。